『ラン・オーバー』/稲庭淳
【あらすじ】
主人公はスリが得意な高校生。いじめに興じるクラスメイトを冷めた目で見ている。ある日、1人の少女が転校してくることによって日常が一転する。スリの証拠を押さえた少女はなぜか、半ば強引に主人公との同棲生活を始める。彼女は主人公に、いじめの中心にいる少女のスマホを盗むよう迫る。中には彼氏とのハメ撮りのデータが。手に入れた爆弾を元にカースト上位への復讐を始める。しかしこの転覆劇はさらなる秩序崩壊への序章に過ぎなかった。
【感想】
一言で表現すると尖ってます。とりあえず冒頭の文章を引用してみましょう。
苛立っている。
苛ついている。
隣人かもしれない。親かもしれない。通行人かもしれない。街の喧騒かもしれない。自分かもしれない。自分を取り巻く環境かもしれない。何に苛立ってるのかもわからないのかもしれない。わからないことに苛立っているのかもしれない。
苛立ちっぱなしだ。
この後に続くのは主人公が電車の中でスリをする場面です。だいぶ鬱屈しています。作者はライトノベルをなんだと思っているのでしょうか。完全な表紙詐欺です。
内容は江波光則の作品からハードボイルドを差し引いた感じです。尖ってはいるもののぶっ飛んでいるというほどではなく、地に足のついた小粒な作品という印象です。とはいえ、教室が恐慌状態に陥るラストのカタルシスはなかなかのものがあります。単なるスクールカーストの逆転劇ではなく、傍観者を巻き込んだ殺戮劇である点がいいですね。
各章のタイトルはPixiesというオルタナ系バンドの曲名から引用してます。この辺りの小ネタも尖ってます。
【評価】
★★★★☆ (読んで後悔しない)
【関連】
⚫︎ ラッパーのハハノシキュウと、作者の稲庭淳との対談です。
⚫︎ 『カブトムシにマヨネーズ/The Art』/ハハノシキュウ
⚫︎ 第3章のタイトルで引用されている『Debaser』/Pixies